ねおすかい、ねおマズラプ!

アニメ、ライトノベル、漫画、その他本、日常生活等から感じたことを書く「雑談」ブログです

「仕事が大事なら 会社員にでもなれば良かったんだ。そうだろ」フィッシュストーリー 本を読んで印象に残ったこと17

1. はじめに

 マズラプです。23回目の投稿になります。

 今回は、本を読んで印象に残ったこと第17弾になります。いつもはビジネス書や実用書から取り上げていますが、今回は趣向を変えて小説から取り上げています。今回の内容は小説を、「物語を楽しむ」視点ではなく「物語を描く」という視点から見て書いています。

 また、最後には取り上げた本のURLも掲載しておりますので、気になった方はお手にとっていただければと思います。

 

 

 

2. 印象に残った部分

 では、今回印象に残った部分を紹介します。

 

“「おいおいあの村に戻るのか?」頭の中で自問してくる声がある。「どうしてわざわざ」と。「さっき見ただろうが」黒澤は自分自身へ答えた。「陽一郎は、唄子から受け取った容器を持っていなかった」

 車の傾きを直す時、陽一郎の手には、あの唄子から受け取った容器がなかった。しかも、それを洞窟に運ぼうともせずに、黒澤の車に乗った。おそらくは、食事が入っているはずのあの容器は捨てたに違いない。

「陽一郎はなぜそんなことをした? どうしてこもり様の食事を捨てたんだ?」黒澤は頭の中で疑問が湧くのを感じている。

「俺の仕事は山田を探すことで、あの村のことに首を突っ込む必要はないだろ」自分を嘲笑し、戒めるかのような声もする。

「仕事が大事なら」と黒澤は自らに言った。「会社員にでもなれば良かったんだ。そうだろ」

 仮に、これが仕事とは無関係だったとして、だから? そう思った。大して困ることでもない。“(「フィッシュストーリー」より)

 

 この部分を読んで感じたことを述べる前に、まずはこの物語の概要について、簡単にお話しします。

 今回取り上げた部分は、「フィッシュストーリー」という小説に収録されている「サクリファイス」の一部分となります。この物語の主人公は、黒澤という三十代半ばの男性です。黒澤は、定職にはついておらず、空き巣をしながら副業で探偵をしています。この物語は、そんな黒澤が、探偵として人捜しの依頼を受け、わずかな情報をもとにとある村に赴いたところから始まります。

 ひょんなことから村人と共に村へ着いた黒澤は、「こもり様」という昔ながらの村の風習の話を耳にします。「こもり様」は、雨の不足や熊の出没等の有事の際に、誰かが一定期間洞窟内で過ごすというものです。どうやらその風習を行えば、雨が降ったり熊がいなくなったりと物事が好転しているようです。

 現在もその風習の最中ですが、黒澤はそんな中で村長である陽一郎の不審な行動を目にします。捜している人はこの村にはいないと言われ、陽一郎にはこれ以上村のことを勘繰るなと釘を刺された黒澤ですが、帰路につかず、再び村に戻ろうとしている、それが今回取り上げた部分の場面になります。

 

 次の項で、この部分を読んで私が感じたことについて述べていきます。

 

 

 

3. 説得力のある巧みな動機付け

 次に今回印象に残った部分を読んでどのようなことを感じたかについて記述します。

 ここを読んで私は、「キャラクターの動機付けが上手いなぁ」と思いました。

 この物語は、黒澤が訪れた村で行われている怪しげな風習の謎を解き明かすことがゴールとなっております。したがって、物語の進行上、黒澤には村の風習の真相を探るような行動をとってもらわなければなりません。しかし、普通の人であれば、仕事の用は済んでいるし、村長にもあまりいい顔をされていないため、村の事情にはこれ以上深追いしないという判断をとる可能性が高いように思えます。もし私が同じ立場だったとしたら、薄気味悪くてすぐに帰り支度を始めてしまいそうです。しかしそれでは物語がゴールに辿り着けません。そんな状況で書かれていた表現が前述したものです。

 この表現は、黒澤というキャラクターの特性を巧みに利用し、黒澤が村の風習の真相を探る行動をとることを読者に納得させるような、素晴らしいものだと思います。確かに普通の人であれば、ここで物語が終わっていたかもしれません。しかし黒澤は、空き巣の副業で探偵をしているような、イレギュラーな特性を持つキャラクターであり、普通の人ではありません。空き巣をしながら探偵をする、そんな人生を選択している黒澤が、「仕事と関係ない?だからどうした」と言って、好奇心の思うがままに行動し、村の風習の真相を解き明そうとしたとしてもおかしくないように思えてきます。

 このように、今回取り上げた部分では、キャラクターの特性を生かして説得のある動機付けを行い、つくる側の都合を感じさせずにストーリー展開を行なった、作者の巧みな文章力を感じることができました。

 

 

 

4. おわりに

 今回の内容は以上になります。ここまで読んでいただきありがとうございました。

 実は、私も一時期小説家になりたいと思っていたことがあります。実際は文章を書くという能力が乏しいことに気付き一作も書かないまま断念しましたが、その際にはいくつか小説家になるための本やインターネットのサイトを読みました。そんなこともあり、小説を読んでいる際に、今回のような視点から作品を見ることもあるのです。やはり世に出ている作品は素晴らしい作品ばかりで、作者の方々を尊敬するばかりです。みなさんも、たまに「物語を描く」という視点から小説を読んでみてはいかがでしょうか。

 では、今後もよろしくお願いします。

 

 

5. 参考文献

・「フィッシュストーリー」,伊坂幸太郎 ,2007,  

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