1. はじめに
マズラプです。139回目の投稿になります。
今回は、漫画「私を喰べたい、ひとでなし」第2巻収録 第5話『希望の海』を読んだ感想を書いていこうと思います。
今回取り上げる第5話は、この作品の今後の展開の基盤となるような、重要な内容が含まれている回となっています。
そのような第5話について、考えたこと感じたことがいくつかあったので、今回文章の形にしてみました。
自分の抱いた感想や見解と見比べながら楽しんでいただけると幸いです。
2. 第2巻収録 第5話『希望の海』を読んだ感想
比名子と汐莉の歪な関係
第5話では、比名子と汐莉の思惑が明らかになり、互いにそれを認識したことで、2人の歪な関係が形成されました。
この関係は、この作品の方針提示とも言えるような、今後の展開の軸となる重要なものだと感じました。
端的に述べると、2人のそれぞれの考えは以下のようになっています。
比名子
・亡くなった家族のもとに行きたい=死にたい
・家族に「生きてほしい」と言われたため、能動的に命を絶つことはできない=受動的に命を絶てるような『自分を殺してくれる存在』が欲しい
汐莉
・比名子を“おいしく"喰べたい
・生きる喜びを感じ、死を恐れているときほど、人はおいしくなる
→比名子に生きる喜びを感じて欲しい。
そして、この2人が、互いの願いを叶えるべく形成した関係が「比名子はもっと生きたいと願えるように日々を幸福に過ごし、比名子がもっと生きたいと願ったときに、汐莉が比名子を喰べる」というものでした。
この結果、比名子は『死ぬために生きたいと願う努力をする』汐莉は『殺すために生きたいと思わせる』という常軌を逸した協力関係が成立したのでした。
2人の関係の落とし穴『比名子の1番の願いは絶対に叶わない』
一見、互いの願いを叶えることができそうな「win-winの関係」のように思えます。
しかし、この関係にはある落とし穴が存在します。
それは、「比名子の1番の願いは叶わない」ことです。
比名子が「死にたい」つまりは「家族のもとに行きたい」と願っているうちは、汐莉は比名子喰べることはなく、比名子は死ぬことはできません。
つまり、「家族のもとに行きたい」という願いを叶えることはできないのです。
ある程度「家族のもとに行きたい」と考えているうちは、「生きたい」よりも「死にたい」気持ちのほうが勝っていると言えるため、「家族のもとに行きたい」という思いがかなり薄くならなければ、汐莉は比名子のことを喰べてはくれないでしょう。
では、汐莉に喰べられるために、比名子が「もっと生きたい」と願うようになれば良いように思えます。
しかし、比名子が「もっと生きたい」と願っているということは、「死にたい」つまり「家族のもとに生きたい」とは願わなくなってしまっていることになります。
簡単に表すと、比名子の願いが「もっと生きたい>家族のもとに行きたい(死にたい)」の状態になっているということです。
そして、比名子が「もっと生きたい」と願うようになったとき、比名子は汐莉によって喰べられてしまうのです。
つまり、このときの比名子の1番の願いである「もっと生きたい」という願いは、叶えられないのです。
このように、「比名子が『死にたい』と願えば死ねず、『生きたい』と願えば生きることはできない」状態、つまりは「比名子の1番の願いが叶わない」状態に、比名子は陥ってしまっているのです。
これが、比名子と汐莉の間で形成された関係の落とし穴です。
このことに気が付いたとき「えげつないな…」と思わずにはいられませんでした。
それでも希望を感じてしまう比名子
そんな闇を含むこの関係なのですが、汐莉に喰べてもらえる未来があると分かった比名子は、笑顔を浮かべていました。
比名子が第5話で見せた笑顔は、私にはそれまででもっとも晴れやかなもののように映りました。
前述したように、比名子の1番の願いは叶わず、比名子の思いは踏み躙られることが目に見えています。
そのことを知ってか知らずか、それでも比名子は、「家族のもとへ行ける」という希望が見えてきて、喜びの笑みを浮かべているのです。
このことは、家族という大切な存在がいない世界に一人残され生き続けなければならないことの苦しさ、そしてその苦しさによって暗闇に落ち壊れてしまった比名子の心を物語っているように感じました。
そもそも「自分を殺してくれることに希望を見出している」ことすら常人では考えられないことであり、事故で家族を失ってから、比名子がどれだけ思い悩み、その心に深い深い傷を負ったのかが垣間見える、そんなシーンだと私は思いました。
「今のままでは比名子は救われない、それでもどうにか比名子が救われてほしい…」そんな思いが、私の中で込み上げてきました。
タイトル回収
忘れてはならないのが、この第5話では、作品のタイトル「私を喰べたい、ひとでなし」の
由来ともとれる場面がありました。
「君は自分が生き残ったことを幸運だとは思わなかったんですか?」
「……大切な人達が突然みんないなくなって私だけが助かってラッキーだったなんて思える?」
「うーん 私は思いますけどね」
「…ほんと ひとでなし」
(「私を喰べたい、ひとでなし 2」苗川采 より引用)
「人でなし」という言葉には、「人間らしい心を持たず、恩義や人情をわきまえないこと」という意味があります。(人で無しとは - コトバンク)
まさに、他がどうであれ自分が生き残れたのならそれはラッキーなことと考える汐莉を表している言葉と言えますね。
そして、汐莉は、人魚であり妖怪で、人間ではありません。つまり、「人ではなし」です。
このように、第5話で、この作品のタイトルである「ひとでなし」は、「『人情や恩義を感じず』『人外の存在である』汐莉」という意味の、いわゆるダブルミーニングの言葉であることが分かりました。
「私を喰べたい」の部分から、なんとなく「ひとでなし」は汐莉を指していそうだなと薄々察してはいましたが、ダブルミーニングがあったとは驚きでした。
比名子と汐莉の関係というこの作品の方針提示がなされた回の中に、タイトルの由来を匂わせる描写も差し込まれており、この作品にとって、この第5話が非常に重要な存在であることがよく分かりました。
3. おわりに
今回の内容は以上になります。ここまで読んでいただきありがとうございました
私は現在第2巻までしか読んでいませんが、この作品の「うっすらとしかし確実に存在する闇」を含んでいるような雰囲気にはとても魅力を感じました。
今後の展開も非常に楽しみです!
余談ですが、今回挙げた「私を喰べたい、人でなし」は、ゴールデンウィークのセールで半額になっていたのを知ったことで購入に踏み切りました。正直思っていた以上に好みの内容で、本当に購入してよかったと思いました。
ありがとうゴールデンウィークセール…!
では、今後もよろしくお願いします。
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