1. はじめに
マズラプです。239回目の投稿になります。
今回は、小説「かがみの孤城」を読んだ感想書いていきます。
※ネタバレありです。
本作品を読んで特に印象に残った以下の3つのことを挙げていきます。
①驚愕と感動を呼ぶ『縦軸のファンタジー』
②共感し感動した『フウカの背景ストーリー』
③助けを求めて手を伸ばすことの大切さ
どちらかというと、作品の紹介というよりは、感想や感じた魅力を書いて発信することで、少しでも作者の方の励みになればいいなというような趣旨の記事になっています。
作者の 辻村深月 先生並びに関係者のみなさんに届け!この思い!
作者の方に関わらず、読んでいただけるととても嬉しいので、どうぞ読んでいってください。
また、同じく辻村先生の作品である「傲慢と善良」の感想も書いておりますので、気になった方は読んでいただければ幸いです。
2. 「かがみの孤城」を読んで印象に残ったこと・感じたこと3選
①驚愕と感動を呼ぶ『縦軸のファンタジー』
1つ目は、本作品の世界観の面白さが印象に残りました。
本作品を読んで、まず本作品の「並行世界ではなく、時間軸の違う同一世界」という世界観には驚かされました。
どれくらい驚かされたかというと、城の真実が明かされ閉城からエピローグにかけての怒涛の伏線回収に圧倒され、「え!?え!?」と驚きの声を連発していたほどです。
横軸ではなく縦軸のファンタジーによる面白さを存分に味わうことができました。
本項では、その中でも特に面白いと感じたことを3つ挙げていきます。
生前に孤城に来ていた実生
まず、リオンの姉の実生も、『オオカミさま』として孤城に来ていたということが印象に残りました。
個人的には「死んだあとにリオンに会いに来た」のではなく「死ぬ前に、時間を超越して、自分と同じ年齢になったリオンと会っていた」というのが、面白い点だと思いました。
旅立つ前に、自分と同じ年齢になったリオンを見届けることができた実生は、どんな気持ちだったのでしょうか。
母親との間の確執に向き合い、新たなを人生への一歩を踏み出すことができたリオンを最期に見ることができて、安心することができたのですかね。
リオンももう一度実生と会うことができて、思い残すことはなくなったとまではいきませんが、ある程度踏ん切りをつけられたのではないでしょうか。
そうだといいなと思います。
実生とリオン、2人の心情を想像し、大きな感動を味わうことができました。
『情けは人のためならず』
エピローグで明かされた「喜多嶋先生の正体」にも驚かされました。
喜多嶋先生に「勉強は一番ローリスクなことかもしれない」という話をされ、フウカは勉強に取り組むようにな莉ました。
そして、フウカはアキにも勉強は一番ローリスクだから、無駄にはならないことだから、一緒に勉強しようと言います。
しかしなにを隠そう、喜多嶋先生はアキの未来の姿だったのです。
つまり「フウカに勉強を教えていたのはアキで、でもアキに勉強しようと言ったのはフウカで、そうフウカが言うきっかけをつくったのはやっぱりアキで…」という状況が形成されていたわけです。
なんとも不思議な気持ちになりました。
これも同一世界内での時間の超越という世界観の面白さですね。
また、このことから、『情けは人のためならず』という言葉を思い出しました。
フウカがアキに勉強を教えたことは、巡り巡って自分が勉強をすることに繋がっていたわけです。
まさに情けは人のためならずですね。
まぁ、なんだかおかしな文脈ですし、巡り巡っておらずもはや直接的すぎますけどね笑
『心』の教室
前述した喜多嶋先生がアキの未来の姿だったことに関連して、喜多嶋先生がこころを助けたというのも、喜多嶋先生がフウカに勉強を教えた状況と同じであり、胸が熱くなりました。
そして私は、スクールの名称である『心』の教室にも、ただならぬ何かを感じました。
こころは、偶然自分と同じ名前でなんだか気まずさを感じていました。
しかし実は、城でこころに助けられた経験がアキの原動力になり、アキがこころを助ける未来へとつながっていたのです。
そう考えると、こころが『心』の教室で活動するアキに助けられたことも、なんだか偶然ではないように思えてきます。
そして、心の教室という名前についても、アキが直接決めたわけではありませんが、どこか運命を感じてしまいますね。
このことについては、作中で明言されておらず、実際は検討外れな憶測なのかもしれません。
しかし私としては、そんな曖昧さが逆に深みを感じさせていいなと思います。
ここでも『情けは人のためならず』を感じてしまいますね。
まぁ直接的すぎるんですけども笑(2回目)
②共感し感動した『フウカの背景ストーリー』
2つ目、物語の終盤で明らかになった城に呼ばれたメンバーの背景ストーリーが印象的でした。
中でも私は、フウカの背景ストーリーが最も印象に残りました。
背景ストーリーの順番の巧妙さ
まず、背景ストーリー全体を通して感じたことについてお話しします。
〈三月〉終盤、こころがアキを助けるまでの途中で、マサムネ→ウレシノ→スバル→フウカ→リオン→アキに、それぞれのキャラクターの背景のストーリーが明らかにされていきました。
この部分を読んで、特にスバル→フウカ→リオンあたりの順番が巧妙だなと感じました。
まずスバルの背景を読んだあとには「親に一生懸命になってもらえるだけマシだな」と思いました。
しかし、次のフウカの背景を読むと、今度は「親が一生懸命になりすぎるのも、盲目になってしまい、よくないのかな」と感じました。
しかしさらにその後、リオンの背景を読むと「やっぱり『自分』に興味を持ってもらいたいよな…」と思っていました。
このように、スバル→フウカ→リオンの順番にすることで、親が子供に期待しすぎても期待しなさすぎても、良くないことになってしまう可能性があることを示しているように感じました。
親子関係さらには人間関係の難しさを痛感しました。
では、以下では、フウカの背景ストーリーを読んで、特に良いなと感じた点について書いていきます。
才能に翻弄される
まず、フウカのストーリーでは「才能」がテーマになっている点が印象的でした。
結果を得るため、才能を証明するためだけにピアノをするフウカと、フウカの才能に固執するフウカの母の姿を見ていて、胸が苦しくなりました。
祖父の「いつまでやるんだ?」という言葉は、私の心にもズシンと響きました。
楽しいのであれば、「楽しいからいつまでもしていたい」と思えるのですが、楽しさを度外しして結果を求めるためだけにやっているとなると、いつまで続けるのかという問いは、心に深く突き刺さるなと感じました。
私自身、趣味がいつの間にか結果を出さなければ満足できないものへと変わり、楽しさを感じなくなってしまったという経験があるので、フウカの背景には、共感するところがありいいなと感じました。
楽しめるように
最後には、フウカがピアノを楽しめるようになっていたことが分かる場面があったのもよかったと感じました。
これで、結果を得るためではなく、ピアノを弾くためにピアノを弾くことができるようになり、フウカの心が軽くなったのではないかと感じました。
「限りある時間の使い方」(オリバー・バークマン, 2022, かんき出版)では、以下のように、ただ活動そのものを楽しむ活動である『非目標性の活動』の大切さが述べられています。
人はみんな様々な目標を達成しようとして日々を過ごしている。ところで、それぞれの目標は、まだ達成されていないかすでに達成されたかのどちらかである。まだ達成されていなければ、欲求が満たされないので不幸である。一方、すでに達成されてしまった場合も、追い求める目標がなくなってしまって不満である。したがって、いずれにせよ、人は不幸なのだ。
何らかの達成を目標とするのではなく、ただ活動そのものを楽しむこと。僕らはそんな活動を日々の生活に取り入れたほうが良い。
フウカにとってのピアノを弾くことも、結果を出すという目標を達成するためではなく、ただピアノを弾くことを楽しむための、非目標性の活動に昇華されたのではないか、そう感じました。
「『フウカ』でよかった」
フウカの背景の中で一番好きなのが、フウカが「自分が『フウカ』でよかった」と感じた場面です。
フウカの才能ではなく、フウカ自身を見てコミュニケーションしてくれることに喜びを感じるフウカの姿を見て、なんだか胸がいっぱいになっていました。
才能に翻弄され、才能がなかった自分には何の価値もないんじゃないかと思うようになってしまったフウカが、「才能がなくても気さくに接してくれる人たちがいる、才能がなくても価値がないわけじゃないと思えた」という結末を迎えたことに、とても胸が温かくなりました。
『才能があって自分があるのではなく、自分があって才能がある』そんなメッセージを感じました。
「才能はその人の個性の1つでしかなく、たとえ抜きん出た才能がなかったとしても、その人の魅力はたくさんある」そんなことを感じられる背景ストーリーだと思いました。
私自身、「誰よりも秀でた才能のない自分には価値がないのではないか」と思ったり、たとえ何か結果を出せたとしても「結果を出し続けられなければ、自分には誰も接してくれなくなるのではないか」と考えたりしてしまうことが多々あります。
しかし、このフウカの背景を読んで前向きな気持ちになることができました。
また挫けそうになったらこのストーリーを思い出そうと思います。
③助けを求めて自ら手を伸ばすことの大切さ
3つ目は、助けを求めて自分から行動することの大切さを感じ、印象に残りました。
本作品には「助けを求めれば、助けてくれる人は必ずいる」そんなメッセージが込められているのではないかと感じました。
作中ではこのメッセージを感じさせる場面がいくつもありました。
こころの母親は、こころが学校に行けない事情を話したことで、こころの力になってくれました。
リオンの母親も、本当は日本に帰りたいということを伝えたことで、リオンの気持ちを理解し、日本の学校に転校させてくれました。
「どうせ話しても分かってもらえない」「どうせ助けてもらえない」そう考えて行動しないのでは、結局なにも変わりません。
でも、勇気を出して助けを求め、自分の気持ちを伝えることができれば、何かを変えることができるのです。
本作品を読んで、思い切って行動することの大切さを学ぶことができました。
「エフォートレス思考 努力を最小化して成果を最大化する」(グレッグ・マキューン, 2022, かんき出版) では、『まず終わらせなかれば、成功することは絶対にない』といったことが述べられていました。
「助けを求めれば誰かが助けてくれる」は、「助けを求めなければ助けられることはない」とも解釈することもでき、このエフォートレス思考で述べられている考え方に似ているなと感じました。
無理だと思って諦めてしまうのではなく、まずは行動していこう、そう思いました。
3. おわりに
今回の内容は以上になります。ここまで読んでいただきありがとうございました。
余談ですが、今回の「かがみの孤城」で、私が読んだ辻村深月先生の作品は2つ目になります。
上記の感想を読んでいただければ分かるように、かがみの孤城も非常に素晴らしい物語だと感じました。
本当に、読んでよかったです。
辻村先生の作品は、なんというか、「ストーリーの面白さ」と同時に「人生で生かせる教訓」のようなものも充実しているのが魅力なのかなと感じています。
そんなわけで、今後も辻村先生作品を定期的に読んでいきたいなと思います。
では、今後もよろしくお願いします。
4. 参考文献
・「限りある時間の使い方」(オリバー・バークマン, 2022, かんき出版)
・「エフォートレス思考 」(グレッグ・マキューン, 2021, かんき出版)
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