1. はじめに
マズラプです。261回目の投稿になります。
今回は、ライトノベル「やがて君になる 佐伯沙弥香について(2)」を読んだ感想を書いていきます。
※ネタバレありです。
普通に感想を書こうと思ったのですが、ストーリーに関わるかそうでないかに関係なく、印象に残る言葉があまりにもたくさんあったので、今回は少し趣向を変えることにしました。
そんなわけで、今回の記事では、作中の印象的な言葉に絞って書いていこうと思います。
本作品を読んで特に印象に残った以下の5つの言葉について書いていきます。
①「今綺麗なら、今は好き。そう言うしかない。」
②動揺を隠しきれない沙弥香
③「そばにいれば、変わったときに気づくことができる」
④差し込む位置が絶妙な地の文
⑤「痛みはあの時に感じた気持ちを思い出させてくれる」
どちらかというと、作品の紹介というよりは、感想や感じた魅力を書いて発信することで、少しでも作者の方の励みになればいいなというような趣旨の記事になっています。
作者の 入間人間 先生、仲谷鳰 先生並びに関係者のみなさんに届け!この思い!
作者の方に関わらず、読んでいただけるととても嬉しいので、どうぞ読んでいってください。
また、第1巻の感想も書いていますので、気になった方は読んでいただけると嬉しいです。
2. 「やがて君になる佐伯沙弥香について(2)」印象に残った言葉5選
①「今綺麗なら、今は好き。そう言うしかない。」
1つ目は、こちらになります。
「昔がどうだからって今が否定されるわけじゃないし……逆に今がいいから、昔が無かったことになるわけでもないんだけどさ。繋がりなんてあるようでないから、今こうしてるのが全部だし、今綺麗なら、今は好きなんだ。そう言うしかない。」
この言葉は、沙弥香の感じていた悩みに対する1つの答えになっていて、かつ人生において大切な考え方であると感じ、印象に残りました。
正直私は、「今の燈子は姉の模倣の産物で、本当の燈子ではないのかもしれない」問題に対して自分なりの答えすら持てていませんでした。
そんな中、私より若い男子高校生くんが、その問題への1つの解答を示していて、驚きと称賛を感じました。
確かに今は過去から続いているものであることは事実です。
しかしながら、今は今しかないこともまた事実なのです。
であるならば、「今、相手の『今』が綺麗ならば、それでいいのではないか」そう考えることにも頷けました。
また、この文章を読んで、「嫌われる勇気 自己啓発の源流『アドラー』の教え」(岸見一郎, 古賀史健, 2013, ダイヤモンド社)や「あした死ぬかもよ? 人生最後の日に笑って死ねる27の質問セラピー」(ひすいこうたろう, 2012, ディスカヴァー・トゥエンティワン)など多くの本で説かれている「私たちには今しかない。私たちは今を生きることしかできない。」という言葉を思い出すことができました。
今を生きること、そして今を見ることの大切さを感じることができる言葉だなと思い、印象に残りました。
また余談ですが、まさか一介のモブ男子くんがここまで核心的なことを言うとは思っておらず、そういった点でも印象に残りました笑
さらに、沙弥香にとって苦い思い出のある告白で学びを得られたという点も印象深かったです。
②動揺を隠しきれない沙弥香
2つ目はこちらになります。
燈子が家に来る。様々な意味で生じる抵抗と期待が壁のように正面からぶつかってくる。
「いいわよ」
石を握りしめたように、返事が固い。
そして、電話じゃないのだから口で言っても伝わるわけがないと、少し遅れて思い出した。
緊張していることは、認めざるを得ない。
『じゃあ早速、明日で』
「早いわ」
やはり声では、伝わらなかった。
こちらは、沙弥香の慌てっぷりが描かれていて、思わず笑ってしまいました。
チャットなのに声で反応してしまうという、普通ならまずしないようなことを2回続けてしているということから、いかに沙弥香が動揺しているのかがよく伝わってきます。
また、そこまで動揺するほどに、燈子のことを恋愛的な意味で気にしていることが垣間見えました。
沙弥香の動揺、そして燈子への想いが見事に表現されている部分だったと思います。
③「そばにいれば、変わったときに気づくことができる」
3つ目はこちらになります。
私は。
燈子に拒絶されて、隣にいられなくなるのが怖い。
(中略)
その限界に迫った距離を捨てたくない。
燈子の側にいたかった。いられる今の自分を、今の燈子を、変えたくなかった。
(中略)
そうして側にいれば、いつか。いつか、燈子が変わった時を感じて、動ける。
こちらは、沙弥香の行動に納得せざるを得なくなるような心理描写だなと感じ、印象に残りました。
「思いを伝えて、関係が変化してしまい、そばにいられなくなるかもしれない」という理由は、比較的よく描かれているものかもしれません。
しかし、「そばにいれば変わったときすぐに動ける」という理由は、今回初めて見て、そういう考え方もあるのかと驚かされました。
そしてこれにより「今の関係を維持できるし、チャンスがきたらすぐに動ける」という二段構えが完成してしまったのです。
ここまでもっともらしい理由ができあがってしまったら、もう自分から動くという選択は取れなくなってしまうでしょう。
私が同じ立場ならまず動きません。
「苦しかったときの話をしようか」(森岡毅, 2019, ダイヤモンド社)でも「人間は本能的に変化を避けている」と述べられていましたし、本能に加えてここまで盤石な理由ができあがってしまえば、もう動くことなどできないなと思ってしまいました。
こう考えると、沙弥香が行動できなかったことにも頷けてしまいます。
沙弥香が今の関係を選んだ理由がよく伝わってきて、思わず沙弥香の選択に納得してしまうような文章でした。
④差し込む位置が絶妙な地の文
4つ目に印象に残ったのはこちらです。
学校の桜というものは、四月が始まる頃には散り始めている。
一見すると、こちらの文章はなんの変哲もない地の文のように感じます。
しかし、③の文の直後に来ているとなると、話は変わってくるのではないでしょうか。
今回挙げた文は、「桜は、入学式のときにこそ満開に咲き誇っているべきなのに、その時期にはもう散り始めてしまっている」ことから転じて、「時期が来たときにはもう手遅れになってしまっている」ことを表現していると解釈をすることもできると思いました。
そしてこのことを考慮したうえで、この文が③の内容の直後に来ることは、「沙弥香の『燈子が変わったときにすぐ行動できる』という思惑は失敗する」ことが暗示されていると捉えることができるのではないかと考えました。
本当に、差し込む位置が絶妙なんですよ…。
本作品を読んでいて、こういった何気ない文章にとてつもないパワーも持たせるのが上手いなと感じました。
入間先生の特徴なのでしょうか。
入間先生の圧巻の文章力に脱帽しました。
⑤「痛みはあの時に感じた気持ちを思い出させてくれる」
5つ目はこちらになります。
傷にも似たものは時間によって縫合されながら、跡を完全に消し去ることはできなくて。
でもやっぱり、その痛みも含めて後悔はないのだった。
痛みは、あの時に感じた気持ちを思い出させてくれるから。
色褪せて忘れてしまうよりは、ずっといい。
こちらの言葉からは、新たな考え方を学ぶことができ、非常に参考になりました。
「行動した結果、うまくいかず、消えない傷を負ってしまうかもしれない。しかし、その傷の痛みは、行動しようと決めたときの気持ちを思い出すことにもつながる。」という考え方は、目から鱗で、とても印象に残りました。
まさに『やらない後悔よりやった後悔』や『悩むより行動』を後押しするような言葉ですね。
この言葉を胸に、『迷ったら行動!』を体現できるように生きていこうと思いました。
3. おわりに
今回の内容は以上になります。ここまで読んでいただきありがとうございました。
作中で印象に残った言葉の紹介に絞るという形式での感想ブログは、今回が初めてになるわけですが、いかがだったでしょうか。
私といたしましては、こういった切り口の書き方も案外楽しいなと感じました。
そういったわけで、今後も気分次第で今回のような形の感想も書いていこうとかなと思った次第です。
では、今後もよろしくお願いします。
4. 出典
・「やがて君になる 佐伯沙弥香について(2)」(入間人間, 2019, 電撃文庫)
・「嫌われる勇気 自己啓発の源流『アドラー』の教え」(岸見一郎, 古賀史健, 2013, ダイヤモンド社)
・「あした死ぬかもよ? 人生最後の日に笑って死ねる27の質問セラピー」(ひすいこうたろう, 2012, ディスカヴァー・トゥエンティワン)
・「苦しかったときの話をしようか」(森岡毅, 2019, ダイヤモンド社)
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