1. はじめに
その『約束』は、目の前の希望と引き換えに、二人を破滅と絶望へ導く__
マズラプです。267回目の投稿になります。
今回は、漫画「私を喰べたい、ひとでなし 7」収録の第28話『愛し子』の感想を書いていきます。
※ネタバレありです
単行本第7巻を購入し読了したわけですが、あまりにも第28話の衝撃が強すぎたので、今回は第28話に絞って感想を書いていくことにしました。
また、その分、語りたいことをすべて語り尽くす勢いで、感情を書き綴っていこうと思います。
本記事の流れとして、比名子と汐莉が対話する『対話パート』と、約束をし直す『約束パート』の2つに分け、語りたいことを語っていこうと思います。
各パートごとに、まず特に語りたいことを1つ挙げ、その後に他に語りたい内容について簡単に触れていきます。
第28話を読んで、印象に残ったことは以下の通りです。
①対話パート
パワープレイになってしまう汐莉
対話に臨む覚悟を持っていた汐莉
対話直前の会話から心がいっぱい
思いをぶちまける比名子
偶然の何がいけないんですか
②約束パート
「どちらも絶望することが確定している」その場凌ぎの約束
対話を諦めてしまった汐莉
約束の果てには…
汐莉の心も雨模様
汐莉の血を飲んじゃった比名子
どちらかというと、作品の紹介というよりは、感想や感じた魅力を書いて発信することで、少しでも作者の方の励みになればいいなというような趣旨の記事になっています。
作者の 苗川采 先生並びに関係者のみなさんに届け!この思い!
作者の方に関わらず、読んでいただけるととても嬉しいので、どうぞ読んでいってください。
2. 「私を喰べたい、ひとでなし」第28話『愛し子』を読んで印象に残ったこと
①対話パート
パワープレイになってしまう汐莉
対話パートで最も印象に残ったのは、対話で思うような結果が得られず、パワープレイになってしまう汐莉です。
「いったい何度言わせれば気が済むんですか」
「死ぬな 生きろ と言っているんです」
このときの汐莉は、一見高圧的な態度をとっているように見えますが、同じことをただ強く言い直すことしかできていないとも言えます。
私には『自分の気持ちをうまく表現できずに泣き喚いている子供』のようにも見えました。
「どうして自分の気持ちが伝わらないんだ。でも他にどんな言葉を紡げばいいのか分からない。」そんな思いが汐莉から感じられるかのようです。
いつもは飄々としたり回りくどいことをしたりと、あたかも狡猾な人間のような振る舞いをしている汐莉。
しかし、その本質は今まで対話を諦めてきた化け物。
対話をする決意をしたといっても、人間のようにうまく言葉を紡げるようにはなれなかったのですね。
せっかく対話する決意を固めたのに、比名子に思いが伝わらず、言葉を装飾することもできない。だから語気を強めて押し倒すという力技に頼るしかない。
そんな汐莉の息苦しさや焦燥感を感じ、胸が苦しくなりました。
対話に臨む覚悟を持っていた汐莉
対話の際の汐莉の姿勢も印象的でした。
「死なないでください」と口にしたとき、汐莉は、いつものような笑い顔ではなく、真剣な表情をしていました。
これは、対話を放棄していた普段の汐莉とは違うことの表れとも捉えられます。
つまり、今回の汐莉は対話をするという意志を持っているということであり、汐莉の言葉は嘘偽りのない本心であると言えます。
普段飄々としているキャラクターの真面目な表情は、より一層真剣度合いを感じられて好きです。
汐莉がどれだけ比名子のことを思っているのかが伝わってきて胸をうたれました。
対話直前の会話から心がいっぱい
対話に入る直前の2人の会話も好きです。
比名子の「話すことなんて今の私たちにある?」は、「ある?(いやない)」というニュアンスが込められている、疑問系ではなく確定系の質問のように聞こえました。
笑顔なのも相まって、比名子の心がいかにぐちゃぐちゃになっているのかが感じられるシーンだったと思います。
それに対して、ええと断言する汐莉も、対話への強い意志を感じられてよかったです。
思いをぶちまける比名子
汐莉の言葉を受けたあとの「もう放っておいてよ!」「戻れるわけないじゃない!」と泣き叫ぶ比名子も印象深かったです。
ここまで声を荒げる比名子は初めてで、比名子が本当にどうしようもない状況に立たされているのだなということが、いやでも伝わってきました。
もう見ていられなかったです…。
そしてその言葉を聞いた汐莉の気持ちを考えたとき、あまりにも辛くて、心が抉られるようでした。
話は変わりますが、正直ことを言うと、私は負の感情をぶちまける女の子の姿にも萌えを感じるので、今回の比名子の姿にはグッときていました。
かわいそうはかわいい…。
「偶然の何がいけないんですか」
汐莉の「偶然の何がいけないんですか」という言葉もよかったです。
別の人だったかもしれない『可能性』に注目する比名子に対し、汐莉は、比名子と出会えた『結果』に注目しているのですね。
比名子との出会いが良いものでなければ、そうは思わないのではないでしょうか。
つまり、汐莉にとって、比名子との出会いそして比名子はとても大切なものとも言えます。
この言葉からも汐莉の比名子への思いの強さが分かりますね。
②約束パート
「どちらも絶望することが確定している」その場凌ぎの約束
約束パートで最も印象に残ったのは、結び直された約束です。
今回結び直された約束の辛いところは、2人とも希望を叶える代わりに絶望を享受しなければならないことが確定していることだと思います。
第2巻収録 第5話『希望の海』で交わされたときには、汐莉の内情は明確になっていなかったため、比名子が絶望することしか分かりませんでした。(詳しくは以前投稿したこちらの記事で話しています。)
しかし今回結び直された約束は、"2人“ がしかも“確実に" 希望だけでなく絶望も享受することが確定しています。
汐莉は「絶望のあとに希望が残っている比名子のほうがいいよね?」みたいなことを言っていましたが、結局はお互い絶望することに変わりありませんし、絶望の度合いも希望と同程度のものと言えるので、どちらも精神的につらいことに変わりはないと思います。
この汐莉の言葉は、どうにか比名子に約束を結び直させるための方便のようなものかもしれません。
まさに、今目の前の比名子の命を繋ぎ止めるためだけに結ばれた『その場凌ぎの約束』と言えるでしょう。
かりそめの希望と引き換えに、破滅と絶望へ導く約束を結んだ2人。
果たしてどのような展開が待っているのでしょうか。
全く希望を感じられなくて、もはや悟りを開くしかなくなっています。
対話を諦めてしまった汐莉
「約束ちゃんとし直しましょう」と提案した汐莉の顔は、いつもの貼り付けたような笑顔になっていました。
このことはつまり、「汐莉が対話による説得を諦めてしまった」ことを意味するのではないでしょうか。
対話を諦め、その場凌ぎの約束をするという、今比名子を死なせないための最低限の選択をとることしかできない。
そんな汐莉の心境を想像すると、胸が痛みました。
約束の果てには…
さて、仮に約束が果たされるような状況になったらどうなるのでしょうか。
比名子に生きてほしいという思いを抱えたまま汐莉が比名子を喰らうのか
それとも比名子を守るために美胡が汐莉の前に立ち塞がり、まるでそれを予期していたかのように汐莉は手を抜き美胡に殺されてしまうか
はたまた、契約を無視し、契約を破った代償として汐莉の命が絶たれてしまうのか
いずれにしても、そんな情景を想像しただけで胸が苦しくなりますし、もしそんな結末だったとしたら、心が壊れてしまう自信しかありません。
どうにかしてみんな幸せになってくれませんか…?
汐莉の心も雨模様
汐莉の頬を伝う雨が、汐莉の涙であるかのように見える描かれ方も印象的でした。
まるで、汐莉の内面を表しているかのようです。
対話はうまくいかず、その場凌ぎの約束でしか比名子を生かすことができない現状を受けて、汐莉も辛く苦しかったのではないでしょうか。
きっと心の中では汐莉も涙を流しているのではないか。
そう思わずにはいられませんでした。
差し込まれる比名子の過去の姿も相まって、胸が痛む描写でした。
汐莉の血を飲んじゃった比名子
最後に、汐莉の血を飲みこんでしまった比名子も印象的でした。
なんか、血を飲み込む女の子にグッときてしまうんですよね。
また「飲んじゃった…」というセリフも、「能動的にではなく受動的に」という様子が伝わってきて好きです。
最後の最後がこの内容というのも締まりませんが、言いたいことはすべて言ったので満足です!!
3. おわりに
今回の内容は以上になります。ここまで読んでいただきありがとうございました。
いつもは「感じたことの中から特に印象的だったものをいくつか挙げる」という形で書いているので、「感じたことをすべて書き尽くす」というのは、今回初めての試みでした。
それほどまでに、この第28話『愛し子』が、私にとって強烈な内容だったということを感じていただければと思います。
苗川先生、いつも素晴らしい物語をありがとうございます。
かげながら今後も応援しております。
では、今後もよろしくお願いします。
4. 関連記事